Global Environment and Planning

当研究室が日々行っている研究をご紹介します。

社会基盤計画学研究室では,利便性の高い公共交通サービスの提供や,社会資本整備計画に必要な調査・予測・評価手法の開発を行っています.

 

主な研究内容

都市間鉄道・航空ネットワークが都市間流動と地域集積に及ぼす影響

鉄道や航空をはじめとする高速交通網整備により,国内の旅客・および貨物は,短時間でより遠くまで移動・輸送できるようになり,利便性が大幅に改善しています.その結果,旅客では日帰りの出張や観光行動が見られるようになったほか,各地に多数の拠点を置いて活動していた企業の地域拠点が集約化され,各地域の企業集積や観光産業が影響を受けています.この研究では,旅客の日帰り/宿泊行動に着目して国内の旅客流動の特性を分析します.さらに地域の産業集積との関係を分析して,活発な経済活動を維持している地域の特性について考察します.
 

環境負荷の小さい自動車保有・利用の誘導策

 温室効果ガスの排出源として自動車やトラックなどの運輸部門が占める割合が高くなっており,環境負荷を軽減するためには,自動車利用の抑制や低公害車の普及の促進が,ますます重要となっています.この研究では,石油価格の高騰や自動車関連税制の変更,および都市構造の変化が世帯の自動車保有・利用行動に与える影響を分析して,環境負荷の小さい自動車保有・利用パターンを導く政策について研究します.具体的には,世帯の自動車保有・利用実態に関するアンケート調査に基づいて,車種の選択,車の更新時期,および車の利用パターンを表現する数理モデルを構築し,シミュレーション分析を通じて,環境負荷の小さい自動車保有・利用政策の効果を定量的に明らかにします.

 

持続可能な中山間地域の形成に関する研究

 西日本や中国地方の盆地や高原をはじめとする中山間地域は,美しい自然に恵まれる一方,人口減少や高齢化の進行が著しい地域です.また近年の市町村合併の結果,行政や買い物,医療の施設が特定の地域に集約され始めています.その結果,中山間地域の自治体も住民も,将来にわたって安全で利便性の高い居住環境を継続することが難しくなっています.この研究は,持続可能な中山間地域の形成を目的とした,交通および地域政策の検討を行います.具体的には,デマンドバスや世帯内の送迎活動による生活上必要な移動手段の確保と,住民居住地の集約化を行った場合の居住の継続性に着目して,アンケート調査に基づいて数理モデルを構築して,政策シミュレーションを行います.
  

データの活用と統計手法のフロンティア

社会基盤の計画に利用できる情報は,従来のアンケート調査データに留まらず,GIS(地理情報システム)に収録された地域統計データや,トラフィックカウンターなどの自動観測機器からのデータなど,幅広いデータソースを活用できるようになっています.これらのデータに対しては,データの特性に合った適切な統計手法を用いることにより,これまでは得られなかった新しい計画情報を抽出できる可能性があります.このテーマに関しては,次のような研究を進めています.

 

○独立成分分析による空港利用者行動特性の抽出

広島空港では霧による航空機の遅延・欠航が頻繁に起こり,空港利用者の利便性を大きく損ねています.この研究では,携帯型トラフィックカウンターによって広島空港に流出入する長期間の交通量を24時間連続観測することによって,航空機の運行ダイヤが正常な場合と,遅延・欠航が起きた場合の空港利用者の行動実態を観測します.このデータに,信号解析の分野で開発された独立成分分析を適用して,観測交通量から,遅延・欠航が起きた際の利用者の行動パターンを抽出して,航空機の遅延・欠航が利用者に及ぼす影響を明らかにします.


 ○時空間的な波及現象を捉えた社会資本整備効果の分析

社会資本の整備効果は,事業実施時の開発行為に伴う雇用の発生等のフロー効果と,周辺の立地変化を伴いながら徐々にその利用者が増加するなどのストック効果に大別され,後者は,事業実施から効果発現までにある程度の期間がかかります.また高速道路等のネットワーク型社会資本は,ネットワーク全体が機能を発揮することによって,その効果が多数の地域に帰着する性質があります.この研究では,社会資本整備を行う上で必要とされる,社会資本整備効果の将来や他地域への波及効果を,時空間統計モデルの考え方に基づいて定量的に分析します.
 

多様な地域を包摂し,かつ持続可能な交通権概念の検討

 最近,生きがいや幸福を支える重要な概念として,外出活動を交通権として整理し,法制化する動きがある.その一方で,大都市圏~中山間地域に至るまで多様な地域に含む我が国において住民が享受できる外出利便性は,当然,各地の居住地特性,目的地特性,および交通特性に左右される.これらの諸特性を踏まえた交通事業の経営的観点を度外視すると,持続不可能な制度となる可能性があるため,地域の多様性を包摂する交通権概念の構築に関しては,慎重な検討が求められる.

 本研究では,多様な地域を包摂しつつ,事業経営的な観点からも持続可能な制度を構築するために,特性の異なる複数の地域に共通する交通権概念を検討する.研究対象地域は,都市郊外部のニュータウン団地と,中山間地域に位置する過疎地区としてGISデータを収集し,アンケート調査を実施する.